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date 2005.8.10
category living
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連載・幻想のスロウ・ライフ(1)


新コーナー!です。少し深刻な内容ですが、2003年末に、某企業に依頼されるも、不採用になった原稿です。一部を改稿してお届けします。
01 東京での生活
1988年、21歳まで家族4人で過ごした東京・国立市の家は取り壊されてしまった。家、といっても仮設住宅の様な造りの、6畳2間の社員住宅だ。代わりにどんな建物が出来るかと思って何度か足を運んだが、結局は更地のままだった。今はどうなっているか知らない。
特に愛着がある家ではなかった。むしろ、通学路に面しているのに、汲み取り式の便所を露呈するかのごとく高い排気パイプが空に伸びていることにひどく傷ついていた。その事を馬鹿にする友人も少なくなかった。
そんな訳で幼少の頃から最近まで、住宅に対するコンプレックス、持ち家に対する憧れは人一倍強かった。
想い出を積み重ねるべき場所が一瞬にして取り壊され、家族は引っ越しを余儀なくされる。経済効率の下で全てが決定される都市、あるいは会社では、ごく当たり前の風景なのかも知れない。この取り壊しをきっかけに、僕も弟も一人暮らしを始めて、家族はバラバラになった。人生の半分以上を共にした飼い猫もいなくなってしまった。人の生活は、結局のところ確実な住処がなければ、何かしらの圧力で簡単に壊されてしまう。都市は、家族や会社をはき出しては迎え入れるという、その新陳代謝で成り立っている。「君はこの街から出ていけ」、「君の様な人はこういう所に住むべきだ」と誰から言われる訳でもないが、巨大な都市の力とは、そんなものだろう。

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