連載・幻想のスロウ・ライフ(8)
06 バックアップ
僕が、マックを導入して最初に手にした本「マッキントッシュ・バイブル」には確かこう書かれてあった「あなたのハードディスクは壊れているか、これから壊れる、のいずれかである」。そして「バックアップは手元にひとつ、遠隔地にひとつ保存しておくこと」と。言い方を変えれば、知恵は分散させておくべき。
これは、都市機能においてもまったく同じ事が言えるのではないか。
東京にはセンスのある人が多いし、何もかもが集中しすぎている。僕は鹿児島から東京を訪れる度に、奇跡的に素晴らしい街だと感心する反面、一極集中していることにとてつもない危うさを感じるようになってきている。羽田からモノレールに乗って眺める景色は、小学生の頃に見た図鑑をめくっている様でわくわくする。その一方で、あまりにも危うくそびえ立つビル群におびえる様になった。
都市の歴史を見てみると、その成り立ちは宗教の中心、経済の中心、情報の中心という具合にシフトしてきた。これからの世の中は、その情報が分散される社会に向かうのではないかと思う。中枢となる都市の機能は薄れ、小さな街の単位で高度な情報化社会が点在する時代。その準備を始めるのが僕の世代に託された使命だと感じている。ひとりひとりの力で、知恵を分散させる時期。そして、記憶の彼方に追いやられそうな知恵は、実は自然の生活に近ければ近いほど、色濃く存在しているのではないか。