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date 2005.8.12
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連載・幻想のスロウ・ライフ(3)


国立市で育った僕は、アイデンティティの確立という点でも、いつも不安を感じていた。社宅で暮らしていたために、地域に属しているという実感がない。当然、街に古くから伝わるお祭りはあっても、参加は出来ない。高校野球では東京のチームを応援する気がおきない。勿論、刺激的な街である点や、自分を形作ったという意味では感謝をしているのだが。
1989年に、「ステレオ・ライフ」という、2つの話が同時進行する漫画を描いた。画面の上段は田舎暮らしのカエルのカップルの話が、下段には都会暮らしのロボットのカップルの話が描かれている。とある雑誌で賞を受けたものの、注目されることはなかった作品だ。
おおまかなストーリーを説明すると、こんな具合だ。
女の子カエルは、都市で出版されたカタログを見て、「ああ、こんなセーターが欲しい」と男の子カエルに告げる。男の子は自然の生活に満足していたが、セーターを買いに、飛行機に乗って都市へ向かう。一方、ロボットのカップルはハイテク浸けの生活で、女の子ロボットは「この生活には潤いがない、花一輪もないじゃないの」と、男の子ロボットに告げる。男の子は都市生活に満足していたが、花を探しに、田舎へ旅立つ。
最後のコマで、2つの話は上段・下段が繋がって、カエルの乗った飛行機と、ロボットの乗った飛行機が空ですれ違う。
両極端な思想が常に存在し、そのどちらでも満足は出来ない、自分に限らず、誰でもが持っている資質だと思う。それをコミカルに描いたつもりではあったが、自分の10年後を決定づける漫画になろうとは、その時は考えていなかった。

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