追徴課税
渋谷に住んでいた頃の話。ある日、渋谷税務署の桑田さん、という人がやってきた。「大寺君、そろそろやばいよ」と、周りの人たちに言われていたので覚悟は出来ていた。「追徴課税だ〜!」桑田さんは淡々と、僕の申告書類にこういった不手際があり、あとこれだけの税金を納めなければいけませんよ、と語ってくれた。純粋に僕は、お金に興味がなく、よって帳簿をつけるのも面倒で、節税するつもりも脱税するつもりもなかったので、桑田さんに反抗する気力も体力も皆無だった。桑田さんの言っている事は正しいのだろう。僕は間違っている、「You May Be Right ~ I May Be Crazy 」とビリー・ジョエルが唄っていたっけ。ところで何故、桑田さん、という名前を覚えているのかといえば、「桑田投手」に似ていたからだ。「失礼ですけど、ご兄弟ですか?」と聞くには、立場があまりにも悪すぎる、不謹慎だろそれは・・。結局、この疑問は晴れていないが、自分の中では「兄弟」という設定になっている。「兄が野球だったら、俺は税務だ」そう決意したんだろう・・何のこっちゃ。
究極の思い出として残るネタとして、更に印象深い出来事が起こった。桑田さんが説明をしている時に、ベランダにカラスが飛んできたのだ。桑田さんは窓を背にして座っているので、気づかない。僕は桑田さんの顔とカラスの顔を交互に見ながら話を聞いていたことになる(やっぱり不謹慎だな僕チン)。「おい!カラス!僕を笑いに来たのか〜」と思うやいなや、ベランダのコーナーに飾ってあった恐竜のおもちゃ(そんなもん飾るな、と)を口にくわえたのだった。カラスは首を横に軽く振り、恐竜をそのまま落下させた。どうせならくわえたまま飛んでいってくれよ。6階に住んでいたので、通行人にぶつかっていたらどうしよう、と、そればかり考えていた。