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date 2010.5.13
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新年度の授業

新年度の授業

今年も専門学校でイラストレーションの授業を行うことになった。毎回、学生には「卒業後、どんな仕事に就きたいか」「好きな芸術家・作家は?」「好きな映画は?」「好きなミュージシャンは?」というアンケートをとることにしている。どんな事に影響を受けてきたかを見ると、何を描き出すかが大体解る。最近気になっているのは「影響を受けた文化との距離がとても近い」という事である。インターネットの時代になって、好きなものがすぐに手に入るようになったため、自分の趣味の範囲しかカバー出来なくなっている。その世界の大御所の姿、或いは歴史などが見えていないんですね。最近流行っているもの、今発表されている漫画などを参考に描いた自分の作品というのは、それ以下にしかならない、絶対に。目指す「何か」との距離は遠い方がいい。流行っているモノのルーツ、そのまたルーツを探っていって欲しい。
「一番求人が多そうだから」という理由で「グラフィックデザイナーなりたい」という学生の記述を見て、「おいおい!」と注意した。話を聞いてみると「デザインの仕事がしたいが、その準備段階でどうしても身につけたい仕事」という答えが返ってきた。だったら、最初からそう書けば良いと思うのだが、そのあたりの不器用さも最近の若者ならではなのだろうか。その場で「求人が多そうだから」という記述を「夢の準備」と書き換えさせた。処世術も教えなくてはいけないのだろうか。イラストやデザインの身体感覚を20歳前後の若者に教えるのは大変だ。今回はデザイントラベルナガオカケンメイさんの話、Judd.というフリーペーパーの話、玄光社から毎年発行されている「イラストレーションファイル」の話なども交えたが、学生はどれも知らなかった。「知っている人?」と手を挙げさせたのだが、恥ずかしくて挙がらなかったのか。僕は狭い世界の住人なのかも知れないが、イラストに特化された授業でこれらを知らないというのはどういう事なのだろう。単純に世代の違いか。彼らの二倍生きてるからな〜。イラストについて、いつも結果だけを見て講評する時間しかないんですが、今年はもう少し話しをする時間を設けよう。

Comments: 8 comments

  1. なおき

    お久しぶりです!鹿児島で瞬間的にお会いできましたが・・・
    時間に余裕がある時にHP見させて頂いてます。
    じっくり拝見させていただきましたが共感すると所が多々有ります。
    (若い世代・・・自分も若いのですが・・・)
    また、自分に足りない所や自分の思い(夢)を持つことを再認識出来ます。
    年をとると、固定観念が付きまとい、何をするにも答えが先に出てくる・・・
    ですがそんなことは無く!何事にも・・・・

    飲み過ぎて、思考が低下気味なのでこの辺で・・・
    有難う御座いました。(^^)
  2. 誰もが高い理想や目標を持っているとは限らないと
    思いますよ。
    地方にいると強く感じます。
    「ただ好き」なだけの子も実は結構いるのでは?
    なので個人的には「求人が〜」っていうのも充分な目的意識があって良いと思います。
    それはそれで夢のある事だなって思います。

    話された内容は、現役の地方デザイナーも知らない人結構いると思います。
    (静岡だけかな?)
    自分はそういうの慣れました。悲しい事ですが…
    なので「知らなくてあたりまえ」前提で会話をします。
  3. ohtematic

    なおきさん→
    あの、なおきくんでしょうか。有り難うございます!田原総一朗が「日本にはタブーはない、あるのは自主規制だけ」とおっしゃっていました。同じ仕事をずっと続けていると、知らず知らずのうちに答えありき、という感じになる場合が多いですね。でも子供の様に、何かを試しているような暮らし方、体力の向上や言葉の上達などを毎日毎日楽しめる様な生き方が理想ですね。
    しばさん→
    そうかも知れません。「知らなくてあたりまえ」で話をした方が楽なんですよね・・・。だけど、イチローや松井を知らずに草野球で漠然と終わる人生と、知った上で、届かないけど「目標」を設定出来る人生って違うと思うんですよ。求人が多いから目指す。というのも、どうなんでしょうか。やはり好きなヤツにはかなわない。先日、法改正の影響で弁護士が増え、みんなロクに生活出来ないというニュースを見ました。資格自体が目標だったりすると痛い目に遭います。しば氏と出会った予備校では、先生達は何となく世界や物腰を伝えてくれましたよね。そういう世界に入りたいと、純粋に憧れることが出来た。あれから20年以上が経過していますが、伝えたいのは、教わった事なんですよね。
  4. >>先生達は何となく世界や物腰を伝えてくれましたよね。
    こういう部分の伝承(?)は大事だと思います。
    っていうか、そこに漂うニオイ・・というか、何かドロッとした本物感というか、
    そういう部分を嗅ぎ分けられない人は残らないと思う。
    何も考えてないように見える天然素材も居そうですがw。
    さまざまな想いが渦巻く世界です。この業界に限った話では無いと思いますが。
    早い段階でいろんなことに気づいて欲しいなー。
    個人的にはかなり遠回りをしたものだから。
  5. 当時、上京者とか受験生というのもあると思いますが、口には出さなくても
    「負けるか!」とか「やったるで!」的なものはみんなあったように思います。
    もちろん受験の向こう側への目線で。

    草野球をやるくらいの野球好きがイチローや松井を知らないなんて
    そら、全米が震撼するくらいの事件ですよ!!
    と書こうと考えていたのだけど、
    考えているうちに
    自分が野球はおろか相撲、空手、茶道など、日本的なものを
    外国人に紹介(説明)することが出来ない日本人だと気付いてしまった。
    今、自分に震撼してます。
  6. ohtematic

    mj_ptaさん→
    そうなんですよね。ニオイ、なんですよ〜。結局のところ、いつも村山さんがおっしゃっている「シーン」というものを日本語に置き換えると「ニオイ」もアリかと思うんです。場所や書籍から漂ってくるデザイン的なニオイを嗅ぐことが出来るか、これだけなんですよね。アンテナを張っていなければ素通りしてしまう。逆に僕は若者が読んでいる漫画には、おそらくピンと来ない。世代間で感性が違うから、そのあたりは難しいですが。スポーツみたいに解りやすくないですからねえ。ニオイをふりまけるように、頑張るしかないですね。
    しば氏→
    日本の文化を外国人に説明出来ない日本人!これは・・・角度が変わりましたがまさに大変な問題ですよね。普天間基地問題も、本来であれば「自衛隊の防衛能力を高めて、米軍のお世話にならない様にする」という議論もあっていい筈なんですが、完全に抜け落ちてる。国が自立していないから、文化の素晴らしさも外国人に教えてもらう事に。地域に誇りが持てないし個人の自立も出来ない。戦後の教育問題ですか・・・。話がズレちゃいましたが、鹿児島で働こうとしている若者のモチベーションを上げるには、しば氏が感じていた「負けるか」「やったるで」的なものをいかに引き出すかなんです。これはなかなか難しいですよ。「とにかく、県外から仕事を取ってこい!」と言っています。
  7. にーな

    はじめまして。ときおり息抜きに拝見しています。
    私は福岡の専門学校で勉強して、グラフィックデザインの仕事をやっていました。

    イラストレーションファイルや、ナガオカケンメイさんなどについての知名度が
    デザインの専門学校の学生でも薄いというのは、県内の地方書店ではそれらの書籍の取り扱いが、なかなかないというのが一番の原因だと思います。

    高校生でネットが可能というのはごくごく最近のことだとおもいますし、
    松陽に行ける子ならそんなことはないんでしょうが、
    地方の普通科の美術部から専門学校というコースでは難しいのかもしれません。
    クリエイターのTVメディアの露出度も機会が少ないですし。

    実際、わたしは転勤の多い父親の仕事のため、県内を転々としました。
    すると、ある意味町の規模が本屋の規模というかんじなんです。
    それでも、大昔ナガオカケンメイさんの本を買ったことがあります。
    D&Dデパートメントをやりはじめるずっと前の、若さ爆発だじゃれ満載?というかんじの時代の本です。いまや別人という気がします。

    大寺さんの絵はほんとうに一貫しているので、すごいと思っています。
    自分はそういうところがなくて、取り扱うテーマによってタッチがかわったり、そもそも雑食タイプなのでアドバタイジング、グラフィックは向いている仕事だと思ってつきました。
    パンフレット制作などは特に、論じる力が大事だと私は思います。
    商品を伝える仕事なので、販売員になったつもりで仕事をしなければならない。
    売り上げがギャラになっている訳ですし。

    アルバイトに何をするか?でも違いが出るように思います。
    ちなみに自分は、レストランやカフェのウエイトレス。
    注文を聞く、おすすめをする(←これ大事)、届ける。代金をもらう。
    人と接することが、一番身になるように思います。
    いい人間関係を築ける仕事であれば、なんでも肥やしになるとは思いますが。
  8. ohtematic

    にーなさん→コメント有り難うございます!確かに、町の規模が本やの規模という考え方はあると思います。昔のクリエイターは、東京との距離が、職業や業界に対する憧れに直結していたと思うんです。未知なる世界というか。しかし、僕の働いている専門学校は中心部に近く、紀伊國屋書店やジュンク堂など、デザイン書籍は手軽に見ることができます。勿論ネットもある。昔の田舎とは違う。そんな訳で「おかしいぞ」と感じたんです。つまり、距離の消滅で、自分がこれから帰属しようとしている世界が見えにくくなったんです。おおきな森が見えずに、自分の興味がある小さな木ばかりが目に入る。好きな作家の作品がすぐに手に入るため、直に影響されてしまう。彼らにとって、その周辺や文脈はないのかも知れません。「イラストレーターになるんだったら、和田誠は知っていないとね」という話が通じにくい。勿論、東京発のものが一番イイという事ではありませんし、若い世代の中から郷土愛が増幅している気がします。こういう今の状況から、新しい価値観が育っていくのだと考えれば、僕たちの世代は静観している方がいいんですよね。
    ***
    僕の絵も、リクエストに応じて振り幅がかなりあると思います。web上で紹介しているものは、一部です。僕も雑食イラストレーターですよ。
    ウェイトレスの経験は、ためになるでしょうね。きちんと人と接する事も、永遠の課題です。いろんな考えの人とどう向き合っていくか、主張をしたり、聞く事に徹したり・・・。30を過ぎた頃から「どうやって自分を社会に溶かしていくか」という事がテーマになっていますね。