南日本新聞「南点」を振り返る(06)
昨年、南日本新聞に掲載された「南点」(全13回)を振り返ってみようと思います。約800字という制限の中で言いたい事が伝わったのかどうか。読み逃した方々へ向けて、全文と補足説明を本ブログで紹介していきます。
***
仕事と視線について
「イラストレーター 大寺聡」と書かれた名刺を差し出すと「普段は何をされているんですか?」という反応が返ってくることがある。また、デザイナーと間違われる事もしばしば。確かにデザイン領域での仕事だが、立場としてはカメラマンと同じで、デザイナーとは反対である(正反対ではないが)。「依頼主が観たいと思う情景」を具現化するのがイラストレーターの役割。印刷、或いはテレビやインターネットなどを通じて不特定多数の相手にメッセージを届ける。言われるがままに描くのか?というと、そうではない。勿論自分の感覚を上乗せしたり、場合によっては「ここは必要ないのでは」という引き算の交渉をして、誰もが理解しやすい絵を共同作業で仕上げていく。
「作品にかけた時間」と同じ時間を受け手が費やせば、作家は報われるという話を聞いたことがある。画家の場合、10年を費やした大作が美術館の常設展示にでもなれば、5分間鑑賞する人が何千、何万と増える事で報われる事になるのだろう。これに対しイラストレーションの寿命は「ひと月程度」である場合が多い。画家とは違う。しかし1万部発行される雑誌の片隅に自分のイラストが掲載された時、読者の視線が5秒ずつに注がれれば、積算で約14時間。そこにやり甲斐を感じる。
資格は必要ない、誰もが自己申告でイラストレーターになれる。幸いにしてこの仕事一本で生活していられるのは、様々な視線がーそれが無意識的であるにせよー自分の背中を押しているからに他ならない。
近代画家を多数輩出した鹿児島。現在でも世界に通じるセンスを持ち合わせている若者が潜在的に多い。作家側の水準を上げる努力は勿論だが、その才能が開花するためには「デザインに対する一般の方々の興味が広がるかどうか」にかかっている。農畜産物では、既に高いブランド力を持っている。同様に「鹿児島のデザインってイイね」と全国から視線が集中する時代は果たして来るのか?
***
追記:
アートとデザインが混同されて語られる事が多くなってきました。その線引きは、自分の中で明確にしていたい。仕事の内容を断片的ではありますが表現してみました。鹿児島にもいろんなアートシーンやデザインのレイヤーがありますが、そのひとつひとつが閉じられた世界を形成してしまうのは一番良くない。権威主義的になってしまったり。そうした閉塞感が限界点に達して鹿児島を離れる人もいる。「南点」を振り返る(01)で語った事とも繋がりますが、自分の感覚を多極化すれば乗り切れる話・・・僕はそんな訳で美術団体には属さないことにしています。農畜産物の話を例に挙げていますが「外貨を獲得している」という部分が重要です。鹿児島を拠点に、全国(或いは世界)から仕事をもらえるような動き方をすればいいと思っています。自由に働きたい、という話なんです。















TiK
2012/01/16 08:06
前回の追記を忘れてました(笑)
大寺さんの作品集など出たら、絶対買いますよ。いや、本当に。
作品も少々状況的に金欠ですが、衝動買いしたいくらいですから(笑)
今回についてですが、デザインと芸術に関して思うのは、手掛けた作品に広告性、公共性も加わると変わってくるように思いますが、『DESIGN』にある別の訳は『SIGN』=サインなんですよね。
その人の描いてきた線が太くなり細くなり、色や影も線に入るのなら、サインよりももっともっと素敵なものを描いて、自分がそれに共感できる視野、度量、刺激などが加味され、空間に彩を与えてくれるものであると信じています。
本来は日本人が指すサインは『Signature=署名』もあるんですから、和製英語になってしまってる面は恥ずかしいですよね。(違ってたらゴメンナサイ)
我々もですが、もっともっと触れようという興味を抱かせてくれることを持ち続けられるような社会にしたいと何時もずっと思います。
権威主義こそ、人間が持つ欲です。
自分も地位や権力は嫌いですが(笑)虎の衣を借りてみるのってどうですか?
しかし、大寺さんや共感できる自分のような存在でありたいと思っても、長いものに巻かれるように生きているのが大方の人間ですからね。そういう方々からすれば、大寺さんのいるポジションって重要ですよ。
『自分を多極化』事はどんな社会でも今求められてるようにも感じます。
鹿児島から日本へ、世界へ。そう思いますよね。本当に。
多分乱文失礼しました。
ohtematic
2012/01/17 20:46
デザインとアートは混同される事が多いのですが、美術系を目指す場合は受験の段階できっちりと分けられるんです。デザイン学科(視覚伝達・空間演出・基礎・工芸工業など)のグループと、油絵、日本画、彫刻のグループ。僕はデザインの方に軸足を置いて活動してきたので、原画を販売する場合でもファインアートとは意味が異なります。勿論、受け手はどう感じても自由な訳ですけれども。
虎の威を借るというのはよく解りませんが、鹿児島発世界行きというのはいつも意識していたいですね。