オススメアルバムその2
もうすぐ9月。夏の終わりにピッタリのアルバムを紹介。1990年に発表されたマイケル・フランクスの「ブルー・パシフィック」。タイトル通り、全編に渡って太平洋の香りが漂う一枚。本当に、青い海が眼前に広がるサウンドイメージ。僕にとって1983年から1989年は、音楽的にかなり辛い時代。録音技術が、中途半端にデジタルとアナログの間を行き来していたためか、音そのものの触感が軽薄だった。この一枚が、90年代の幕開けを告げたおかげで、僕は当時随分と救われた。
マイケルのステージは、ブルーノート東京と、Sweet Basil 139で何度か見ている。ベジタリアンで知られる彼は、何年も履いているのに新品の様なシーンズ、白いスニーカー、シルク地のシャツ(かな?)といった出で立ちで登場。女性ファンが歌の途中でバラの花を差し出す場面も・・。目を閉じて唄っているので、気づかない・・。ヒヤッとする。声量はない。リズムに対してかなり出遅れて歌い出し、またまたヒヤッと。アルバムにもそんな彼の姿勢が(どんな姿勢なんだよ・・)貫かれており、アンニュイな(って、今言うかな)ムードで包まれている。しかし、アンニュイなのは彼のヴォーカルのみであり、バックを務めるミュージシャン達は、正に鉄壁の布陣、その対比がいい。バジー・フェイトン、ディーン・パークス、ジョー・サンプル、ピーター・アースキン・・など、ちょっと挙げてみただけでも、鳥肌もののメンバーだ。更に特筆すべきは、3名ものプロデューサー。ジェフ・ローバーが4曲、トミー・リピューマ(通称トミリピュ)が3曲、ウォルター・ベッカー(スティーリー・ダン)が3曲をそれぞれ担当している。これも、ADLIB系の音楽ファンにとっては、涙でジャケットが霞む贅沢なメンバーである。ウォルターが担当した曲「Vincent’s Ear(ゴッホの耳)」については、新しい音楽表現に狂喜したものだった。他にもジョー・サンプルとラリー・カールトンの掛け合いが美しい「Chez Nouz」など聴き所満載、捨て曲ナシです。
マイケル・フランクスのアルバムは、対峙する音楽でないかも知れない、しかし確実に生活の一部として、末永く聴き続けられる魅力を持っています。他にも良い作品が数枚あるので、機会を見て紹介します。
最後に・・このジャケット、貝殻に耳をあてて海の音を確かめている様子がカッコイイ(?)のですがトリミングが気になりませんか。実は、この頃からマイケルの頭髪が薄くなって、仕方なくこの位置に決まったものと思われます。