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date 2006.10.16
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連載小説・昭和の高校生 第十回


「トントン」牧夫の方を叩いたのはマスター(と思われる人物)だった。ゆっくりと目を開けると、テーブルに珈琲が運ばれて来た事が解った。サイボーグと雪男は、元の姿勢に戻っている。(襲われずにすんだ・・・取り越し苦労だったか・・・)。様子がおかしい牧夫に対して、マスター(と思われる人物)は「どうしました?」と優しく声をかけてくれた。防御の姿勢だった牧夫は、ここでようやく我に返った。顔をしっかりと上げて、思いきって「実は、これなんです」と12本のテープを机の上に広げて見せた。マスター(と思われる人物)はそれを見て、サイボーグと雪男を呼び寄せた。中年男が3人、座っている牧夫を取り囲むという何とも奇妙な構図になった。牧夫はここで、珈琲を一口すすってみた。苦い。普段は砂糖とクリームは欠かせないが、その動作をする雰囲気ではなかった。マスターと思われる人物は、店の外に出てすぐに戻ってきた。「準備中」と案内板を裏返した様だ。まずい事になったなと思いつつも、雰囲気に流されて「吹奏楽部の女友達が録音してくれたもので・・・」牧夫はこれまでの経過を3人に、素直に話した。慣れ親しんだ街、しかし今日は旅・・・恥をかき捨てるつもりで、全て打ち明けたのだった。(それにしてもこの3人、一体どういう人なんだろう、父と同じ世代だが、まるで違う、紳士でもなければロクデナシでもない様だが・・・)3人はテープを次々に観察している。子供の様な眼差しでインデックスカードも見入っている。沈黙の時間がしばらく続いた。それまで立っていた3人は、牧夫の周りの3席にゆっくりと腰を下ろした。「愛だね・・・いや・・・、愛だったね」サイボーグが話を受けて、そう言った。続いて雪男がポツリと一言「ルーザー、君は既に失恋している」。「え、何なんですか、それは・・・」牧夫は中年男達の言葉に、ショックを隠しきれなかった。「ルーザー、今日、時間はあるかい?」マスターと思われる人物がつぶやいた。(いつの間にか僕は3人からルーザーと呼ばれている)牧夫は初めての世界に足を踏み入れたことを実感した。

Comments: 5 comments

  1. ゐの字

    ノリノリっすね〜。ここ2回は自分的に好きな方向へ展開している感じで『がんばれルーザー!』と応援中。 数字としては12回、13回で終了しそうな気がしますが、 20回くらいまでいくのだとすれば今折返し地点。いや、それも超えて長期連載か?? 何にしても新聞(1段)で連載されてる小説みたいな浮遊感を楽しんでます。
  2. ゐの字→
    この後、どうすればイイんですかね〜?もう、登場人物達が一人歩きを始めている感じです。この後「西遊記」になるかも知れないし「マトリックス」になるかも知れないですね。人ごとの様ですが・・・。早めに終わらせないとね。
  3. けっこう、おもしろいです。
    最初はエッセイっぽかったんですが、いいですねぇ、この展開。
    出し惜しみせず、ぜ〜んぶ書きたいこと、書いちゃってください。
  4. mimiうさぎ

    私も第一章はそろそろ終わりに近づいているなぁと思ってました。「早めに終わらす!」そんなことmimiの楽しみが減るので困ります。
    誰もが経験する経験したさほど展開もしない普通の恋心をベースに、ちょっと儚いほろ苦い思い出と、現在進行形の密かな恋心??を編みこみながら書いてくださいね。よ・ろ・し・く・・
  5. Tessyさん→
    Tessyさんの後押しがあって、めでたく10回目を迎えることが出来ました。書きたいことは沢山ありますが、流れに逆らう要素などもあり、なくなくカットしたり・・・。完全版はきちんと製本したいですね。
    mimiさん→
    だ、第一章・・・って?二章もあるんですか?社会人になってからとか?現在の恋心って?いやあ参ったな〜。mimiさんの体験談も是非、参考にさせてください!