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date 2006.10.19
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連載小説・昭和の高校生 第十一回


(これまでのあらすじ)
吹奏楽部の仲間、牧夫と薫子。卒業を間近に控え、薫子はポリスの最新作をカセットテープに録音し、牧夫に渡した。12本目のこのテープ、薫子は「これが最後」「牧夫には解らないと思う」と言い、牧夫とは疎遠な関係になった。薫子に恋心を抱いていた牧夫は不安になり、その謎を解くために、商店街の裏路地に面する喫茶店「マティカ」へと相談に出かける。そこで出会ったのは格闘家風のマスター(と思われる人物)、サイボーグ風の中年、雪男風の中年であった。これまでの薫子との経緯を彼らに話したところ「既に失恋している」と言われてしまった。そして牧夫は彼らに「ルーザー」と呼ばれていた。
***
「もしもし、オレ・・・・。今日は遅くなるから。んん・・・マティカにいる。あの、はぎれ屋さんを曲がったところのさ・・あ・・・じゃあね」
牧夫は、マスターと思われる人物に「自宅に連絡しておきなさい」と店の電話を手渡されたのだ。
「じゃあ、行きますか。マスター・・・」雪男がポツリとつぶやいた。マスターと思われる人物が本当に「マスター」だったことが、ここで初めて解った。牧夫の肩にトン、とマスターが手をあてた。無言だったが「大丈夫だよ」という意味に受け取れた。テープへの視線で、悪人でない事くらいは解っていたが、ちょっとしたその仕草がとても格好良く思えたのだった。(え・・・店、閉めちゃうんだ、本当に・・・)。商店街の外れに、4人は歩いて行った。しばらくすると、屋外駐車場に到着した。マスターのものと思われる車は、スズキの軽自動車だった。(360cc、雰囲気からして10年落ちくらいだろう)。沈黙した空気が流れているので、牧夫はとりあえず「渋いですね」と言ってみた。サイボーグが「フォフォッ」と笑う様な声を発した。マスターはニッコリと微笑み、おもむろに肩掛けカバンから「何か」を取りだし、リアウインドウの下に貼り付けた。貼る位置が正確に決まっているらしく、丁寧に垂直、水平を確かめる動作をしている。マスターが運転席の方へ歩いて行くと、ようやく、それが何であるかが解った。(おいおい初心者マークかよ!)牧夫はちょっと怖くなった(まあ、今日はどうなってもイイさ・・・)。前の座席を倒して、サイボーグと雪男が後部座席に乗り込む。牧夫は助手席だ。マスターはチョークを引いて、エンジンをかけた。チョークを徐々に戻しながら、暖機運転を2分ほどしただろうか。2サイクル独特の音と匂いが牧夫を刺激する。「しゅっぱ〜つ!」雪男がそう叫んだ。

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