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date 2006.10.6
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連載小説・昭和の高校生 第五回


(前回までのあらすじ)
唐突に突きつけられた薫子からの「最後の録音」という言葉、その先にあるものは?
***
薫子は続ける「吹奏楽部で演奏していて、自分の能力に限界があることは解った。当たり前よね?本当に音楽がやりたいんだったら、こんな高校に来ている訳ないし〜。でも、音楽が好きなことは確かなんだ。だけどちょっと角度が違っていて、私の場合は、音そのものの在り方が気になるのよ。雰囲気というか、空気というかさ。いつもカタチとして、はっきり見えてるんだ。音楽室の設備はイマイチだけど、みんなが楽しんで演奏しているから、そういう「気」が集まってとてもイイ音に感じる。カタチも最高ね。結局のところ、そういう状態に、私たちは感動する。それがイイ音楽って事でしょう。去年、おととしあたりの録音から、急にその空気感が希薄になった気がしない?。これじゃあ音楽は駄目になるわよ。だから、例えばうちの吹奏楽部の空気を掴み取って、伝える仕事がしたい。こうやって牧夫と話している、この感じもパッケージに出来ると思う」志望校もまだ決まっていない牧夫は、矢継ぎ早に語られる彼女の目標、進路の具体性が羨ましかった。彼女の言葉の意味は殆ど理解出来なかったが、ただ圧倒されてしまった。そして、彼女がどこか遠くへ行ってしまう様な気がしたのだった。
「この間、ウォークマンが出たでしょう?あれをきっかけに、きっと音楽はカジュアルなモノになるよ。音楽鑑賞という概念は無くなってしまうわね。私は、それを・・・あ・・。じゃあね」
バスが来てしまった。自転車にまたがったまま、薫子の乗るバスを見送る牧夫。彼女は僕に手を振っているのか?牧夫が顔を動かす度、それにシンクロするかの様に街路樹や他の乗客が視線に立ちはだかる。仕方なくうつむき、自転車を漕ぎだした。

Comments: 10 comments

  1. フィル・スペクター

    彼女は「音の壁」のことを述べているのですか。
  2. マテ先生がもしも女の子だったら・・・
    ・・・みたいな感覚になってきました。
  3. mimiうさぎ

    今日のは映像が目の中に浮かびました。高校時代は聞いている音楽は洋楽なのに、校舎とリンクして思い出す音は、管楽器の音色だったり、制服と部室の臭いニオイまで思い出したりして・・・懐かしくて面白いですね。特にこの季節は文化祭なんかもあり、そうそう夕方のフォークダンスの会?に出るため男の子探すのにみんな必死で、憧れの先輩とかいて・・なかなか声もかけられず・・・これも昭和なんだなぁ~
    でも、最初のウォークマン、欲しいのは高くて買えず、お弁当箱見たいな大きさでも満足していた時代もあったのよね♪
    今日はちょっとしみじみ満月を眺めて・・月ウサギでした。
  4. 当時のソニーの会長さんが、音楽好きで、出張などに行っても簡単に持って行けるテープレコーダーを、個人的に作ってもらった、のが始まりですよね、
    この女の子、今頃は、すばらしいクリエイターになってるんだろうな。
    こういう、都会な女の子に、純情な田舎の男の子は、惹かれるんでしょうね^-^;
  5. アグリステーション鹿児島

    ウォークマン小学生の頃,親にねだったら
    携帯用ラジオを買ってもらいました。
    うまくごまかされています。
  6. フィルさん→
    音の壁って、音速の壁の事ですか・・・?彼女が述べているのは、音の実体感というか、音像の事だと思われます(人ごとの様ですが)。
    chinatsuさん→
    ん〜、そうなんでしょうかね。女の子だったら良かったと思う瞬間はありますよ。瞬間ですけどね。
    mimiうさぎさん→
    mimiさんの意外な過去ですね。フォークダンスの会・・・何か、いいですね。アメリカン・グラフィティとか、そういう青春の感覚です。僕はそういうものに無縁だったな・・・。インドア派だったので。月、綺麗でしたね。
    Tessyさん→
    ソニーの会長が世界の音楽事情を変えた訳ですね。ある意味、罪作り。でもこの秋、ソニーはピュアオーディオ製品を久々に発表しましたね。この時代に戻るのかな。
    アグリさん→
    携帯ラジオ、正解じゃないですか〜?カッコイイですよ。競馬をやっている人と間違われなければ。僕は、ウォークマンにはかなり抵抗がありまして・・・電車の中では文庫本派でした。
  7. mimiうさぎ

    女の子だったら良かったと思う瞬間?
    この辺りは是非聞きたいですね。昔は「オトコだったらいいのに」とどんなに思ったことか、でもその感覚忘れてました。だって、基本的には女の方が楽に生きれるみたいですから・・ね。
    だけど、マテッィクさんは文章も人間性ももちろん「紳士・オトコ・少年」ですが、観察の仕方は「女の子」かな・・と思ってました。ウフ!
  8. いわゆる、フィルスペクターの「スペクター・サウンド」ってやつですね、これは。
    日本では「大滝詠一」の「A LONGBACATION」(ん、これもSONYだった、よな?)。洋物で有名なのは TheRonettesの「ビーマイベイベー」ですね。
    たしか、大滝さんが、これに影響を受けて「夢であえたら」を作ったんですね、なつかすぃー。
  9. テディ

    話がかみ合っていませんでしたね。
    野暮を承知で解説させてください。
    前出の笛吹・フィルは、私です。
    笛吹は大滝詠一のエンジニア時の変名で、
    フィルの「音の壁」はいわゆる
    「ウォール・オブ・サウンド」です。
    小説に呼応させてみました。
  10. mimiうさぎさん→
    女の子だったら良かったと思う瞬間、ここでは言えないですけどね。何だか、楽しそうですよね。男は、日本で年間3万人くらいは自殺してしまう。男は弱いです。
    Tessyさん→
    そうでしたか、フィル・スペクター自身に影響を受けた事はありませんでした。ナイアガラ系についてもそうです。その影響下にあるもの、周辺にいる人達に影響を受けた事はあると思います。
    テディさん→
    こちらにはメールアドレスも同時に知らされるので、正体は解っていました。Tessyさんと音楽の趣味が合うのではないでしょうか!
    テッシー&テディ!ウォール・オブ・サウンドについては恥ずかしながら知りませんでしたが、あの音の触感については、影響されたことはありません。厚くて、こもっている感じがしませんか。そんな訳で小説の途中ですが、薫子が影響されたのは、ルディ・ヴァン・ゲルダーやアル・シュミットです。僕にとって60年代というのがビジュアルも含めて、いまひとつピンと来ないんです。